ある日、家の近所の商店街を歩いていると、道端に一台のバイクが止まっていた。
バイクの傍らには一人の少年が立っていた。
少年は立ったまま、エンジンを空ぶかししていた。
ウォーン!ウォーン!ボボボボボボ・・・ウォーン!ウォーン!・・・・
見た感じ、少年は「族」ではなさそうだった。
少しやんちゃな、けれど純朴そうな感じに見えた。
空ぶかしも、”他人の迷惑になる事で自己顕示欲を満たす”といった類のものではなかったけれど、エンジンの調子を見るかのように装いつつも、その実、自己陶酔しているだけ、という感じのあおり方だった。
けれど、周囲の人々からみれば、「族」もその少年も、やっている事に大差はなく、彼の行為はどうみてもはた迷惑であり、そばを通る人たちは一様に顔をしかめていた。
ウォン!ウオウオウオン!ウォーン!
人の往来も少なくない、商店街のど真ん中であるにも関わらず、彼は完全に自分の世界に入っていた。
そんな彼の横を通り過ぎる時に、一緒に歩いていた、普段全くバイクに興味を示さない嫁さんが、こう言った。
「ねえ、あれ、『XJR』って書いてあるけど、昔あんたが乗ってたやつと一緒?」
えっ?と一瞬思ったが、すぐに僕はこう答えた。
「違うよォ。 あれ、400じゃん!!」
・・・
次の瞬間、それまで ウォンウォン!うるさかったバイクが急に静かになった。
見ると少年はこちらに背を向けたまま固まっているように見えた。
え?いや、あの、、、、。
そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。
***
やがて少年はヘルメットを被り、バイクを数メートル押した後にまたがり、アクセルも吹かさず、スルスルと発車し、去っていった。
ごめんよ少年。
頑張れよ、少年。(何を?)
街はいつも通りの静かさを取り戻していた。