最初のフルペイントはGSX100S。
僕が初めてバイクのカスタムに手を染めたのは、GSX1100S刀を手に入れてからでした。
1990年に発売された「アニバーサリーモデル」の中古を上野のバイク街で手に入れ、そのあまりの乗りにくさを何とかしようとカスタムショップに出入りするようになりました。
(今思うと中古車なのだから、カスタムにはしる前に先ずメンテナンスにお金を掛けるべきでした。だいいち、そもそもあれは本当にアニバーサリーモデルだったのか?それさえ疑問です。確かにアニバーサリーモデルのステッカーは貼ってありましたが、当時まだ発売されて1,2年しか経っていない中古とは思えないほど、程度は良くありませんでした。)
当時はまだ独身だったこともあって、この刀にはかなりの金額をつぎ込みました。
まずはマフラー交換に始まり、オイルクーラー、バックスステップ、カスタムシートを装着。やがて足回りをそっくりGSX-Rに換装し、乗り味は全く別モノになりました。(ノーマルより良かったかどうかはともかくとして・・・。)
エンジンまでイジるつもりはなかったので、”最後はいよいよカスタムペイントかな?”、と思いつつ、あれこれバイク雑誌でカタナのカスタムを見つけては穴が開くほど眺めていました。
まだバブルの名残が残る時代。雑誌にはド派手なカスタム刀が沢山並んでいました。
そして冬のボーナスを手にした日、刀をイジってもらったバイクショップへ行き、”カスタムペイントしたいんですけど”、と相談してみました。
店主曰く「知り合いにペイントするやつがいるからやらせようか?俺から言えばたぶん5万円位で塗れると思うけど。」との事。
5万円は安い!これから冬で乗る機会も減るし、やるなら今しかないかも・・・と考え、二つ返事でお願いする事にしました。
キャンディーブルーのカスタム カタナにあこがれて・・
ちょうどそのころ発売されていた雑誌の刀のカスタム特集に、カーボン製のカウルの上半分をキャンディーブルーに塗り、赤のピンストラインで飾った刀が載っていました。キャンディーブルーと言ってもかなり赤みが買った色で、角度によっては紫に近いようなブルーでした。
これカッコいい~!これしかない、と思った僕は、それそっくりに塗ってもらう事にしました。ただしカウルはノーマルでカーボンではないため、カーボン風の色で塗り分けてもらう事にしました。
さっそく件のショップへ行き、しかし当時「キャンディーブルー」という言葉を知らなかった僕は、こう依頼しました。
「上半分は見る角度によっては紫に見えるようなブルーで、下半分はカーボンに見えるようガンメタで塗ってください」
”よし、わかった。じゃあそれで塗らせるわ” 、というショップの店主にバイクを預け、喜び勇んで帰宅。その日からは、まさに指折り数えて完成を心待ちにしていました。
ペイントされた愛車にめまいを覚える (涙)
「出来上がったよ」という電話をもらい、休日を待ちきれず、金曜の夜に仕事を終えてからバイクショップへ駆けつけました。
店に入ると、明るい蛍光灯の下置かれていた我が刀は、どう見ても紫にしか見えないブルー?と、どう見てもカーボンには見えない真っ黒な下半分に塗られていました。
あまりにもド派手過ぎて、ヤンキーか暴走族のバイクにしか見えません。
一瞬事態が呑み込めず、呆然と立ち尽くしていました。
「どう?こんな感じで?」という店主に、しばらく返事すらできませんでした。
うわー、やっちまった・・・・。
言葉を忘れて立ち尽くす僕に、ようやく店主も気が付いたらしく、
「(汗)もしあんまりにも気に入らないのなら、塗り直しさせるけど・・・。」と声を掛けてきました。
まあ、こちらの指示もあまりにも曖昧だったわけで、普通なら「まあしょーが無いよなあ」と自分を納得させて終えるところですが、この時ばかりは藁をもすがる気持ちで、
「塗り直し、お願いしてもいいですか?」
と依頼しました。
二度目の仕上がりも・・・
更に待つこと2週間。
祈るような気持ちで店を訪れると、前回よりはやや青みが強くなった紫と、ガンメタというより灰色に塗り分けられた刀がありました。
色の境めには真っ赤なラインが、ややガタつきながらひかれています。
もはや溜息しか出てこず・・・。
僕はお店に料金を支払い(6~7万円位だったと思います)、変わり果てた刀を引き取って帰りました。
***
その後は、乗るたびに、バイクカバーを剥がした瞬間に溜息が・・・。
結局その半年位後に、刀はドナドナしていきました。
シンプルなXJR1200をイエローに染める
カタナの次に乗ったのがXJR1200でした。
FJ1200からの流れをくむ1200ccの空冷エンジンを持ち、その大きなエンジンに負けないボリュームたっぷりなガソリンタンクが特徴的。全体的にオーソドックスな作りでしたが、ヤマハらしく細部に至るまできれいにデザインされたカッコイイバイクでした。
大きくても乗りやすい、いいバイクでしたが、やはりノーマルでは飽き足らず、マフラー、オイルクーラー、リアサス、ホイールと少しづつ手を入れていきました。
一通りいじると、最後はやっぱりペイントしたくなり、あれこれ構想(妄想?)を練るようになりました。
そんな時、雑誌を眺めていると、一台のカスタムバイクが目に留まりました。黄色いドカティーのモンスターをベースにカスタムしたマシンで、実にかっこいいマシンでした。
これしかない!
同じネイキッドマシンとはいえ、XJRとモンスターではずいぶん雰囲気が違うのですが、もともとイエローが好きだったこともあり、どうしてもその色に塗りたくなりました。
前回の反省を踏まえ、今度は同じ轍を踏まないよう、入念にリサーチをしました。
雑誌でペイントショップの情報を片っ端から調べ、電話を掛けまくりました。
「XJR1200をイエローの単色で塗りたいのですが・・・」と費用を尋ねると、下は10万から上は18万円位まで、店によってかなり差のある回答が返ってきました。もちろん、もちろん一言でイエローの単色と言っても、使う塗料や塗り方、クリアを重ねるのかソリッドのままか、タンクのエンブレムをどう描くのか、etc.によってかなり費用が違ってくることは想像できます。それにもちろん安くても気に入った仕上がりにならなければ意味がありません。
そんな折、いつものように雑誌を眺めていると、イエローとパープルに塗り分けられたド派手なXJR1200が。
当時筑波で開催されていたテイスト オブ 筑波 で大活躍していたミハラスペシャリティーのマシンでした。
正直なところ派手過ぎて(レーサーなので当然ですが)やや僕の好みとはかけ離れてはいましたが、それはそれでとてもカッコイイマシンでした。
このマシンのペイントを担当していたのが「ブラッシュファクトリー」さんでした。
ブラッシュファクトリーと言えば日本のカスタムペインターとしては草分け的な超有名店で、当時のバイク雑誌には同店が塗ったカスタムマシンが沢山掲載されていました。
「こんなマシンを塗ってるショップでペイントしてもらえたらなあ」と思いつつ、「でもとんでもなく高いんだろうなあ~」と想像していました。しかし、まあものは試し。電話して費用を聞いてみると決して高くないお値段が(むしろ安い方だった。)。
電話での応対も丁寧で、敷居が高そうな雰囲気はありません。
もうこれは、お願いするしかない!そう思い、早速アポイントをとると、XJRに乗ってブラッシュファクトリーを尋ねました。
Brush Factoryを尋ねる
当時ブラッシュファクトリーは東京の世田谷にありました(現在は神奈川県の平塚市に移られています)。まだスマホなど無い時代。事前に地図を調べて行ったものの、土地勘がない事もあり、いっこうに店が見つかりません。住所を頼りに尋ねても、そこは住宅街のど真ん中で、とてもペイントショップがあるような場所には思えませんでした。
なんども電話で道を尋ね、さんざん迷った挙句、ようやくたどりついたそこは、外から見るとまったくの民家。看板も何もなく、どうみてもペイントショップには見えませんでした。
しかし、一歩中へ入ると、店内には所狭しとペイント中やペイントの順番を待つパーツであふれかえっています。バイク好き、カスタム好きには宝箱のような空間でした。
店主の平井さんは「店、分かり辛いよね~(笑)。こんなところで塗ってると思わないでょ?」と笑顔で僕を招き入れてくれました。もともと自宅の一室を改造して塗り始めたそうで、外観が民家なのも当然といえば当然です。
「で、どんなふうにしたいの?」と聞かれ、「黄色の単色で塗りたいんです。ドカティーモンスターのイメージで。色はミハラスペシャリティーのXJRと同じでお願いします。」と答えました。「ミハラのイエローはどちらかというと黄土色に近くて、ドカのイエローとはちょっと違うんだけどね~」「タンクのエンブレムはどうするの?」などと会話しつつ、平井さんはペイントに関するいろんな話を聞かせてくれました。
僕が遠慮気味に
「あの~。どこかに『Brush Factory』と入れてもらいたいんですけれど・・・。」
というと、平井さんは笑顔で
「ああ、いいの?いや、うれしいなあ。」
と言ってくれました。
なんだかんだで1時間くらいは話たでしょうか。
最後に「うん、わかりました。じゃあバッチリしあげとくから」と言われ、僕は愛車を預けて店を後にしました。
ますます大きくなったXJR1200
それから一か月くらい後だったでしょうか。待ちに待った「できたよ~」という連絡をもらった僕は、休みを待てず、平日仕事を終えてからブラッシュファクトリーを尋ねました。
店に近づくにつれ、店の前に停められたバイクが見えてきました。イエローに輝くそのバイクは、暗闇の中、蛍光灯に照らされて一際大きく見えました。そう、とても大きく見えたのです。それは間違いなく僕のXJRでした。
「で、デカイ、、、。」
それが第一印象でした。ただでさえ大きなXJRが、膨張色で更に大きく見えたのです。そこはちょっと誤算でした。
イエローは僕のイメージしたイエローそのもので、厚くクリアが吹かれていて艶があります。
タンクのエンブレムはシルバーで、赤いラインで縁取られていました。そしてサイドカバーにはペイントで「BrushFactory」のロゴが誇らしげに描かれていました。(ロゴペイント代はサービスでした)
単純に、キレイだなあ、と思いました。
「どう?」とほぼ笑んでいる平井さんに
「いやぁ、イメージ通りです!」と応えた僕は、何度も何度もお礼を言って店を後にしました。
ハッキリ言って支払った代金以上の仕事をしてもらったと思います。ほんとに感謝でした。
なのに、、、
後々僕は、こんなにお世話になったBrushfactoryさんに、なんとも失礼なことをやらかしてしまうのです。(大汗)
長くなったので、この話、後半に続きます。